【超短編】素粒子・オリオン座・黒い

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素粒子・オリオン座・黒い で三題噺書きます。

 

 

大人になってから、太陽とは無縁の生活を送ってきた。

月と共に目覚め、太陽が昇る頃に眠る。はじめは真っ暗な生活に戸惑ったものだが、慣れとは恐ろしいもので、いつからか夜を好むようになり、夏の暑さを知らずに日々を過ごす心地よさや、冬の空に輝く”オリオン座”を眺めて家へと帰った時間は、あの生活でしか味わえない体験だったと思う。

とは言ったものの、その生活はどうしても心を蝕んでいく訳で、次第に私の中には、”黒い”絵の具が水に溶けていくように広がっていった。

人間にとって夜とは、自分を内省する時間として作られた素晴らしい時間だと思う。

なぜ生きているのか、とか、どう生きていきたい、とか、どう死にたい、とか。

答えのない答えを見つけようとしながら、次第に襲う睡魔に体を預けるまで、自分と禅問答を繰り返すのは、夜にしか引き受けられない大役なのである。

私たちの住んでいる地球は、宇宙という果てのない何かからしたら本当にちっぽけな惑星であり、そのちっぽけな惑星に生きている一人の人間の考えていることなど、この世界を作った誰かさんにしてみれば”素粒子”ほどにしか映らないのだろう。

だがそんなことはどうだっていい。私はこのちっぽけな地球で、その中のちっぽけな島国で、ちっぽけな悩みを抱えながら、毎日をたくましく生きていくのだから。